公立進学校の野球部員や指導者で
「弱くはないけど、上位まで勝ち進めない」
「部員の強みを活かせていない気がする」
といった悩みを抱えている方はいませんか。
近年の高校野球は私立高校が台頭しているため、公立高校が上位進出するのは難しくなっています。また、進学校となると様々なハンデがあるため、上位進出はさらに難しくなります。そのため、公立進学校が私立高校などの格上の相手に勝ち、上位進出するためには、自分たちの強みを活かした野球をする必要があります。
そこで、この記事では公立進学校でプレーした筆者の経験をもとに、公立進学校が不利な理由と強みを解説したうえで、強みを活かした戦い方を紹介します。
ちなみに筆者の野球歴はこちらの記事にまとめています。ぜひご一読ください。
公立進学校が不利な理由
公立進学校の強みを理解するために、まずは公立進学校が不利な理由を解説します。
理由として
・限られた設備
・短い練習時間
・入部する選手の能力の低さ
が挙げられます。
設備に関しては、金銭面に余裕がある私立高校が有利になるのは当然です。専用グランドや室内練習場、ウエイトルームや照明など、設備は充実しています。
また、公立高校でも野球部専用グランドや室内練習場など、私立高校に引けを取らない設備の高校もあります。しかし、それらの公立高校は部活動に力を入れている高校であり、公立進学校で設備が充実している高校は多くありません。
練習時間も照明があれば夜遅くまで練習できますし、雨天時も室内練習場で練習できるため、設備が整っている方が練習時間を確保できます。また、寮の選手は野球漬けの毎日を過ごしていると言っても過言ではありません。
公立高校でも、私立高校に近い環境で練習している高校もあります。しかし、進学校は部活動の時間が決まっているところが多く、学業もおろそかにできないため、必然的に練習時間は短くなります。
入部する選手に関しても、私立高校は県外の選手が入部でき、スポーツ推薦もあります。また、公立高校でも部活動に力を入れている高校であれば、受験の点数に中学時代の部活動の成績や体力テストの点数が加算されるところも多くあります。
一方で進学校では、もちろん学力が重視されます。そのため、必然的に入部する選手の能力は低くなります。
もちろん例外もありますが、これらの点で公立進学校は不利であることがわかります。
公立進学校にしかない特徴
上記のように公立進学校は不利ですが、公立進学校にしかない特徴もあります。その特徴は、高校で野球をやめる選手が多い点です。
高校卒業後に野球を続ける選手は、大学野球、社会人野球、独立リーグで野球を続けます(サークルや草野球は別)。ただ、高卒で社会人野球や独立リーグで野球をする選手、もしくは大学に野球推薦で進学を目指す選手は、そもそも公立の進学校に入学しません。
もちろん、公立進学校から一般受験で大学に入学し、野球部に入部する選手もいます。しかし、そういった選手は少数であり、「高校野球を野球人生の区切り」と考えている野球部員が公立進学校は多いです。
一方で、強豪校の野球部員は、上のステージで野球を続ける選手が多いです。そのため、「高校で野球をやめる選手が多い」という特徴を活かせれば、格上の相手と戦えるはずです。
「高校で野球をやめる選手が多い」から危ないプレーや怪我をさせてもいいということでありません(当たり前ですが)。「高校で野球をやめる選手が多い」という特徴を活かして、強豪校には真似できない戦い方を目指します。
特徴を活かした戦い方
はじめに、強豪校の野球部員が目指す上のステージ(プロ野球、大学野球、社会人野球、独立リーグ)の共通点は「リーグ戦」と「木製バット」です。つまり、上のステージで野球を続ける選手は、「リーグ戦」、「木製バット」で活躍できる戦い方を重視します。
この前提を踏まえて、「高校で野球をやめる選手が多い」という特徴をピッチングとバッティングに活かす方法を解説します。
また、筆者の高校で実践していたことをもとに解説しますが、すべて実践する必要はありません。同じ公立進学校でも、チーム事情や采配方針が大きく異なるからです。一部でも実践できそうなものがあり、少しでも参考になれば幸いです。
ピッチング
ピッチングへの活かし方は2つあります。1つ目は、「変化球の数を増やす」です。
筆者の高校では、ピッチャーは球速や変化球の質を上げるのではなく、変化球の数を増やすようにしていました。ある程度変化してコントロールできる変化球を5つ、少なくとも4つ投げられるようにしていました。理由は、球速や変化球の質を上げるよりも簡単だからです。
球速や変化球の質を上げるには、投球の専属コーチやラプソード、トレーニング施設など、環境が揃っている方が有利です。また、強豪校は選手の能力が高いことも考えると、公立進学校にとっては圧倒的に不利です。
しかし、変化球の数を増やすには高い能力は必要なく、器用な選手にとっては難しい話ではありません。キャッチボールで色々試してみて、投げやすい球種を練習すれば試合で投げられます。
変化球の数を増やすというスタイルが強豪校で採用されない理由は、先述の通り「上のステージで活躍できないから」です。質の低い変化球は、目くらまし程度にしかならないため、対策されやすいリーグ戦だと通用しなくなります。
ただ、高校野球はトーナメント戦で一発勝負のため、目くらましが十分通じます。1人で完投するとなると微妙ですが、複数の投手の継投ならば試合終了までに対策するのは難しいです。
2つ目は、投球フォーム(オーバーハンド、サイドハンド)の使い分けです。
投げ方を変えることで、リリース位置が変わるだけでなく、同じ球種でも変化の仕方が変わります。スライダーを例に挙げると、オーバーハンドのスライダーは縦変化の要素があり、真横ではなく斜め下に変化します。一方でサイドハンドのスライダーは横変化の要素が強く、滑るように変化します。
こちらの動画で確認してみてください。
オーバーハンドとサイドハンドを使い分けられれば、変化球の数は単純計算で2倍になります。この投球術を強豪校がやらない理由は、変化球の数を増やす場合と同様に「上のステージで活躍できないから」です。
投げ方を増やすと1つのフォームに割ける時間が少なくなります。つまり、変化球の数を増やす場合と同様に、1つの投げ方の質を上げることに注力せず、目くらましさせるための武器を増やすということです。
「変化球の数を増やす」「フォームを使い分ける」どちらも付け焼き刃の戦い方です。しかし、付け焼き刃の戦い方が通用する理由が「トーナメント戦で一発勝負だから」の他にもあります。それは、強豪校は付け焼き刃で戦う相手と対戦する機会が少ないからです。
強豪校の練習試合の相手は、同じような私立高校や公立強豪校です。慣れない戦い方をされれば、どんなチームも100%の力を発揮できません。このアドバンテージを上手く活かして、自分たちがそつのない野球をできれば格上相手にも勝てます。
バッティング
バッティングの活かし方は、「ボールになる変化球に手を出さない」です。
筆者の高校では、「ボールになる変化球に手を出さない」を徹底していました。当たり前のことだと思うかもしれませんが、ボールになる変化球に手を出すことは、バント失敗、牽制死と同レベルのミスだとされていました。(ボールになる変化球に手を出した分、全員連帯責任でポール間走みたいな、、)
キャッチャーをやっていたからわかるのですが、ボールになる変化球を見極められるとバッテリーは苦しいです。ボールになる変化球は被打率が低く、最も空振りが取れるため、配球に組み込みやすいです。
プロ野球全選手のコース別被打率(2023シーズン途中) 出典:サンスポ
それを見極められると、少なからず配球は崩れます。普段と違う配球になれば、投手のコントロール、リズムが乱れ、付け入る隙が生じます。能力で劣る場合は、いかに相手のペースでプレーさせないかが重要です。
このバッティングスタイルを強豪校がやらない理由は、ピッチングと同じく「上のステージで活躍できないから」です。
「ボールになる変化球に手を出さない」を徹底するには、ギリギリまでボールを見極める必要があるため、必然的にポイントが近くなり、窮屈なバッティングになります。しかし、上のステージは木製バットのため、しっかり振れない打者は通用しなくなります。そのため、窮屈なバッティングで強豪校の選手が「ボールになる変化球を振らない」を徹底するのは現実的ではありません。
筆者のチームも、「ボールになる変化球に手を出さない」を徹底した結果、ヒットは単打が多く、長打も外野の間を抜けるのがほとんど、ホームランは公式戦で1本だけでした。それでも走塁や小技、四死球をうまく絡ませれば、十分な攻撃力になります。
この戦術には目に見えるような成果はなく、ボディーブローのように相手が嫌がることを続ける地味な戦術です。「球種を狙い打ちしてクリーンヒット」「フルスイングしてホームラン」といった野球の方が面白いし、苦しくないです。しかし、それでは強豪校と同じ土俵で戦うことになり、そうなれば公立進学校に勝ち目はありません。
強豪校に勝つには、何かを犠牲にしてでも1つのことを徹底し、「○○に関しては強豪校にも負けない」という強みが必要です。また、徹底するには選手の意識の高さと監督の覚悟が必要です。簡単なことではありませんが、公立進学校が格上に勝つのはそれぐらいのことが必要です。何を徹底するのか、ぜひ検討してみてください。
まとめ
今回は、公立進学校の強みを活かした戦い方を解説しました。記事の中でも書きましたが、ここに書いてあることすべてを実践する必要はありません。何か少しでも参考、アイディアのきっかけになれば幸いです。
野球のことを常に考えている強豪校と戦うとき、勉強にも注力している進学校は気後れしてしまうかもしれません。しかし、進学校で文武両道を貫いていることに誇りをもって、強豪校に食らいつけるように努力すれば、高校野球がさらに楽しくなると思います(私もそうだったので、)。頑張ってください!
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