「勝利期待値(WE:Win Expectancy)」という野球指標を聞いたことがある方は少ないのではないでしょうか。
あまり聞き馴染みが無いですが、勝利期待値はセイバーメトリクスでも活用されている野球指標です。
そこで本記事では、高校まで12年間野球を続けた経験と、大学では統計学を学んだ知見を活かして、勝利期待値を徹底的に解説します。
※この記事で記載している勝利期待値の値はトム・タンゴ氏の著書「The Book:Playing the Percentages in Baseball」の値を参照しています。トム・タンゴ氏と著書の内容については、記事の後半で紹介しています。
勝利期待値(WE)とは

勝利期待値とは一言で、ある場面でのチームが勝利する確率です。
例えば、6回裏・無死1、2塁・同点の場合、後攻チームの勝利期待値は70%、先攻チームの勝利期待値は30%になります。
これが6回裏・無死1、2塁でも先攻チームが2点リードしている場合、後攻チームの勝利期待値は42.3%、先攻チームの勝利期待値は57.7%になります。
つまり、イニング・アウトカウント・ランナー・点差からチームが勝つ確率を算出する事ができます。
ここで重要な点は、場面のみに焦点を当てており、チームの強さは反映されない点です。そのため、試合開始時点の勝利期待値は、先攻チームと後攻チームのいずれも50%になります。
勝利期待値(WE)の活用方法

次に勝利期待値の活用方法を戦術評価と野球観戦の2つの観点から解説します。
勝利期待値(WE)の戦術評価での活用方法
勝利期待値を活用することで、戦術の有効性を数値的に評価することができます。
例えば、7回裏 同点 無死1塁で送りバントをして1死2塁になった場合、勝利確率は64.7%から62.5%になります。これは近年話題になっているバント不要論の裏付けになります。

一方で盗塁をして無死2塁になった場合、勝利期待値は69.7%になりますが、失敗して1死ランナー無しになると勝利期待値は55.2%になります。また、ヒッティングで併殺打になり2死ランナー無しになると勝利期待値は52.2%になります。
これらを数値化することで、盗塁を試みる価値があるランナーなのか、ヒッティングさせるべき打者なのか、といった判断の材料になります。
勝利期待値(WE)の野球観戦での活用方法
野球観戦に勝利期待値を活用することで、試合後に活躍した選手や試合のターニングポイントを可視化することができます。
以下の画像は2023年のWBC準決勝、メキシコ戦の日本の勝利期待値の推移です。

この試合の村上の逆転サヨナラタイムリーは、この大会の名場面として語り継がれています。勝利期待値を見ても、価値ある一打だったことがわかります。
しかし、従来の指標(打席結果や打点)のみを見ると吉田の3ランホームランの方が数値的には高くなります。

このように勝利期待値は、従来の指標だけではわからない選手の勝利への貢献度を数値化します。
そのため別の視点で選手のプレーを見ることができ、野球観戦もより楽しくなります。
勝利期待値(WE)の計算方法

勝利期待値の計算方法ですが、勝利期待値の性質の通り、各シチュエーションでチームが勝利する確率を求めます。しかし、なんとなく想像できると思いますが、勝利期待値を算出するには膨大なプレイデータが必要になります。
そのため、正確な勝利期待値のデータが知りたいという方は、以下の本を参考にすることをおすすめします。
著者のトム・タンゴはセイバーメトリクス研究家であり、メジャー球団のアドバイザーを務めるなど、セイバーメトリクスの第一人者とも言える存在です。
この本には1回表無死ランナー無しから9回裏二死満塁、同点から±4点まで」すべてのパターンの勝利期待値が掲載されています。文章は英語ですが、セイバーメトリクスを詳細に学びたいという方にはおすすめです。
まとめ
今回は勝利期待値について詳しく解説しました。
勝利期待値はこれまで見えなかった選手の活躍を数値化し、戦術評価や野球観戦に新しい視点を与えます。
今回の記事をまとめると以下のようになります。
勝利期待値の解説まとめ
- 勝利期待値とは、ある場面でのチームが勝利する確率
- 勝利期待値を使用することで、より多角的に戦術の評価や野球観戦を楽しめる
- 計算するには膨大なデータが必要
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
また野球指標について学べる野球漫画も多く存在します。以下の記事では筆者おすすめの野球漫画を紹介していますので、興味がある方はぜひご一読ください。


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