野球関連の記事を読んでいると、UZRという単語を目にする機会が最近増えました。
UZRとは端的に言えば、守備に関する指標で、”Ultimate Zone Rating”(アルティメット・ゾーン・レーティング)の略称です。
ゴールデングラブ賞の選出の際に引き合いに出されるUZRですが、実はUZRは絶対的な指標ではありません。
そこで当記事では、UZRについて、計算方法から欠点まで徹底的に解説します。
UZRとは
UZRとはアルティメット・ゾーン・レーティングの略で、選手の守備能力を評価する指標です。
守備能力の評価は、具体的には「同じポジションの平均的な選手よりもどれだけ失点を減らしたか」です。
評価項目は、内野手は守備範囲、失策しない能力、併殺奪取能力の3項目、外野手は守備範囲、失策しない能力、肩の力の3項目です。また、投手と捕手は別の計算式が用いられ、捕手は盗塁阻止率や捕逸阻止能力が重視されます。
そして、UZRの評価基準は以下のように考えられています。
UZR | 評価 |
---|---|
+15 | ゴールデングラブ級 |
+10 | 優秀 |
+5 | 平均以上 |
0 | 平均 |
-5 | 平均以下 |
-10 | 悪い |
-15 | 非常に悪い |
また、近年UZRが重視される理由として、セイバーメトリクス(野球の統計学)では「エラーしない選手」ではなく「アウトを稼げる選手」を評価する指標の方が有益であると考えられているからです。
ちなみに、広島東洋カープの二塁手、菊池涼介選手の守備機会無失策記録が止まったプレーが、この考え方が広がるきっかけになったと筆者は考えます。
つまり、守備範囲が狭い選手は、打球への捕球動作を行うことなく打球はヒットと記録され、その選手の守備率に影響はありません。しかし、逆に守備範囲が広く、届くか届かないかの際どい打球への捕球を試みて失敗し、「失策」と判定された場合、守備率は下がってしまいます。
そのため、少し前までは失策の少なさ(守備率の高さ)が評価されていましたが、「失策が少ない(守備率が高い)選手」が「守備能力の高い選手」と見なせないと考えられるようになり、UZRが重視されるようになりました。
まとめると、UZRは「同じポジションの平均的な選手よりもどれだけ失点を減らしたか」を示し、アウトを稼げる選手を評価する指標です。
UZRの計算方法
UZRの計算方法について解説します。UZRの計算方法は非常に複雑かつ、必要なデータを一般の方が収集することが難しいため、興味がない方は読み飛ばすことをおすすめします。
計算方法の解説は、野球のデータ分析を行う「株式会社DELTA」が運営する野球データサイト Essence of Baseball の説明を引用しながら行います。
先ほど少し触れましたが、UZRを算出する評価項目は、守備範囲、失策しない能力、併殺奪取能力、肩の強さがあり、その中でも最も重要であり複雑な項目は守備範囲です。
守備範囲の評価のポイントは「ゾーンデータ」と「評価方法」です。
まず、UZRにおける守備範囲は打球の位置、種類(ゴロ、フライ、ライナー)、速度などを詳細に表した「ゾーンデータ」を用いて計算します。
打球の位置に関しては、以下の図のように、フィールドのフェアゾーンを 22 の方向と 8 つの距離に分割したものを用いて表します。
この「ゾーンデータ」をもとに、その打球がアウトになる確率(アウトの期待値)、その打球が得点につながる確率(打球の得点価値)を各ゾーン毎に、リーグ全体の数値から算出します。
打球の得点価値を求める計算式は、そのゾーンに飛んだ打球の結果を用いて、以下のようになります。
(単打 × 単打の得点価値 + 二塁打 × 二塁打の得点価値 + 三塁打 × 三塁打の得点価値 + 本塁打× 本塁打の得点価値) ÷ ヒット数の合計 + アウトの得点価値の絶対値 = 打球の得点価値
そして、リーグ全体の数値と選手のプレーを比較して、プラス評価とマイナス評価を行います。
このプラス評価とマイナス評価を集計した値がUZRです。
では、UZRのプラス評価とマイナス評価はどのように行われるのでしょうか。
まずはプラス評価について、Essence of Baseball の説明を参照します。
そこから各ゾーンにおけるプレーの価値を計算する材料は、その打球が「平均的にどれだけアウトになるか」と「どれだけ得点価値を持っているか」である。例えば三遊間に飛んだある種類のゴロは、リーグ全体のデータを見ると50%の割合で遊撃手に、10%の割合で三塁手によってアウトにされるとする。そうするとこの打球は通常60%の割合でいずれかの守備者によってアウトにされることになる。このとき遊撃手がアウトを成立させたなら、60%(アウトの期待値では0.6)だった確率を100%(アウト数1)にしたということで差分の0.4アウトをプラス評価として遊撃手に与える。この打球の価値が0.72点であれば、0.72点の価値があるアウトを0.4個稼いだのだから、遊撃手は得点の意味では0.72と0.4の積である0.288点だけこのプレーによって失点を防いだことになる。これがUZRによる当該プレーに対するプラス評価である。
(Essence of Baseball より)
まとめると計算式は
{1 ー (打球のアウトの期待値)} × 打球の得点価値 = 当該選手のプラス評価
となります。
次に、マイナス評価についてです。
一方この三遊間への打球がヒットになってしまった場合、遊撃手と三塁手の両方にマイナス評価が与えられる。まずチームとして見ればこの打球で通常0.6アウトを獲得できるはずだったのだからアウトを奪えなければ0.6アウトの損失となる。そして、50%が遊撃手に期待されることから0.6アウトの損失の83%(50%÷60%)は遊撃手の責任、残りの17%(10%÷60%)は三塁手の責任になる。
遊撃手はアウト数では0.6に0.83を乗じた0.5のマイナスであり、これに得点価値0.72を掛け合わせた0.36が得点の単位でのマイナス評価になる。三塁手も同じように、チームとした失った0.6アウトの17%を責任として被り、0.072点のマイナス評価となる。これがUZRのマイナス評価である。
(Essence of Baseball より)
まとめると計算方法は
打球のアウトの期待値 × 当該野手の責任の割合 × 打球の得点価値 = 当該選手のマイナス評価
となります。
UZRではこれらのプラス評価とマイナス評価を繰り返して守備範囲を評価しています。
そして、失策しない能力の求め方は
(当該野手の守備機会 × 12球団ポジション毎の平均失策割合 ― 当該野手の失策) × 1失策出塁あたりの得点影響 = 失策しない能力
となります。
これら2つの評価項目に加えて、内野手は併殺奪取能力、外野手は肩の力による評価を踏まえて、UZRの数値が決定されます。
UZRの欠点
UZRは細やかなデータを用いた守備指標であり、利点が多くあります。
UZRの利点
- 処理した打球の難易度も考慮する
- 外野手は強肩によって進塁させない抑止力も評価される
- ヒットにしてしまった打球も評価に影響する
しかし、最初に触れたようにUZRは絶対的な指標ではなく、欠点も存在します。
UZRの欠点
- 算出者によって値が大きく異なる場合がある
- ポジショニングが考慮されない
- グラウンドの違いが考慮されない
1つ目は、算出者によって値が大きく異なる場合がある点です。
日本でUZRを算出しているのは、株式会社DELTA と データスタジアム株式会社です。
そして、上記のUZRの計算方法で紹介したゾーンデータは、各社が独自で取得したものであるため、相違が生じます。
例えば、DELTA と データスタジアムが算出した2021年NPBセ・リーグ遊撃手のUZRランキングの上位3人は以下のようになる。
順位 | DELTA | データスタジアム |
---|---|---|
1位 | 京田(ドラゴンズ) | 坂本(ジャイアンツ) |
2位 | 坂本(ジャイアンツ) | 西浦(スワローズ) |
3位 | 西浦(スワローズ) | 京田(ドラゴンズ) |
このように、算出者によって値が変わってしまうのは欠点であると言える。
2つ目は、ポジショニングが考慮されない点です。
UZRは、打球が飛んだ位置や種類をもとに算出され、野手のポジショニングは考慮されません。
例えば、遊撃手があらかじめ三遊間に寄って守る場合、三遊間の深いゴロをアウトするのは難しいプレーではありません。しかし、UZRは打球の情報で算出されるため、評価は高くなり、守備範囲を正確に表していないと考えられます。
また、ポジショニングは野手が自分で判断しない(捕手やデータ分析係の指示に従う)場合が多いため、野手の守備の能力とは言えないのが現状です。
守備範囲に重点を置いた守備指標としては 「OAA」 が挙げられます。これは、投球時の守備位置から打球の落下地点までの距離と、投手がボールをリリースしてから落下するまでの時間という2つの変数から算出されます。興味がある方は調べてみてください。
3つ目は、グラウンドの違いが考慮されない点です。
わかりやすいのは、甲子園が土のグラウンドということです。土のグラウンドは人工芝のグラウンドと比べてイレギュラーも増えますし、打球の勢いも弱くなるため、守るのが難しいと言われています。
そのほかにも、人工芝と天然芝の違いやグラウンドの形状など、差が生じてしまいます。
そのため、UZRは「守備の上手い下手」ではなく、「同じポジションの選手と比較してどれだけ失点を減らしたか」を評価する指標であることを理解する必要があります。
UZRまとめ
今回の内容をまとめると以下のようになります。
UZR まとめ
- アウトを稼げる選手を評価する指標
- 守備範囲はゾーンデータから算出される
- 算出者によって値が異なる
- 「守備の上手い下手」ではなく、「同じポジションの選手と比較してどれだけ失点を減らしたか」を示す
セイバーメトリクスにより、データに基づいた戦術が主流になってきています。
UZR以外の指標も知ることで、さらに野球が面白くなるので、ぜひ調べてみてください。
こちらの記事では、注目されているフライボール革命について解説しているので、興味のある方は是非ご一読ください。
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