この記事では「Leverage Index(LI)」という野球指標を解説します。
みなさんは打者の勝負強さを判断するときに、何の指標を参考にするでしょうか。打点や得点圏打率を挙げる方が多いかと思いますが、今回解説するLeverage Indexも打者の勝負強さを判断する指標になり得ます。
Leverage Indexはセイバーメトリクスでも注目されている指標ですが、その内容や計算方法が難しい側面もあります。
そこで本記事では、高校まで野球を続けた経験と大学で学んだ統計学の知見を活かして、Leverage Indexを徹底的に解説します。
Leverage Indexとは

LIとは、野球の試合における「その場面の重要度」を数値で表した指標です。
LIの値が 1 の場面が平均的な重要度を示し、例えば LIが 2 の場面は、平均と比べて重要度が 2倍であることを意味します。
非常に重要な場面の例として、同点の9回裏 2死満塁では、LIは 6.4 となり、この場面の重要度がいかに高いかが分かります。
このように、イニング、アウトカウント、ランナーの状況、そして点差といった要素をもとに、場面の重要度を客観的に数値化できるのです。
つまり、試合開始直後の同点の場面や、点差が大きく開いて勝敗がほぼ決まっている場面ではLIの値は低くなりますが、一打逆転が起こり得るような緊張感の高い場面では、LIの値は跳ね上がることになります。
Leverage Indexが注目されている理由

次に、LIがセイバーメトリクスにおいてなぜこれほど注目されているのかを解説します。
冒頭で触れたように、LIは、打者の勝負強さを評価する新しい指標になり得るとされています。
従来、打者の勝負強さを評価する指標としては、打点や得点圏打率が用いられてきました。
しかし、これらの指標にはどのような欠点があるのでしょうか。
打点による勝負強さの評価
打点とは、塁上にいるランナーをどれだけホームに還したかを示す数値です。
打点が多い打者は、ランナーが多い大事な場面で仕事をするというイメージから、勝負強い打者だと一般的に評価されがちです。
しかし、ここに大きな問題があります。
打席にランナーがいるかどうかは、打者本人の能力ではなく、前の打者の出塁率に大きく左右されるからです。
例えば、同じ5打席でも、すべての打席がランナーなしの打者と、すべての打席が満塁の打者では、後者の方が打点が多くなるのは明白です。
つまり、打点の多さは、その打者の能力というよりも、「どれだけチャンスで回ってきたか」に影響される指標だと言えます。
実際に、2020年シーズンのソフトバンク・柳田と日本ハム・中田の成績を比較してみましょう。

ホームラン数はほぼ同等であり、打率と得点圏打率は柳田の方が1割近く高いにもかかわらず、打点は中田が20以上も上回っています。
中田の打点が多かった主な理由は、強力な上位打線にあります。
中田は4番を打っていましたが、1番の西川遥輝(出塁率.430/リーグ4位)、3番の近藤健介(出塁率.465/リーグ1位)といった出塁率の高い打者が揃っていたため、ランナーを置いて打席に立つ機会が非常に多かったのです。

このように、打点は「前の打者に依存する指標」であり、打者個人の勝負強さを評価する指標としては不十分であることが分かります。
得点圏打率による勝負強さの評価
では得点圏打率はどうでしょうか。
ランナーが2塁以上にいるチャンスの場面での打率を測る指標であるため、一見すると「打者の勝負強さ」を評価するのに適しているように思えます。
しかし、得点圏打率で打者の勝負強さを評価するには、疑問が残ります。
それは、得点圏打率が単に「ランナーが2塁以上にいる」という条件のみを対象にしている点です。
例えば、同じ「2死3塁」という状況であっても、10点リードしている場合と、同点の場合では、その場面の重要度は全く異なります。
また、同点の「2死3塁」でのタイムリーヒットであっても、試合序盤である1回裏の先制タイムリーヒットなのか、それとも試合を決める9回裏のサヨナラタイムリーヒットなのかによって、打者が発揮した「勝負強さ」が与える印象は格段に変わってきます。
例えば、同じ2死3塁でも10点リードしている場合と同点の場合では状況が全く異なります。
また、同点の2死3塁でのタイムリーヒットでも、1回裏の先制タイムリーヒットなのか、9回裏のサヨナラタイムリーヒットなのかでも打者の勝負強さの印象はかなり変わります。
つまり、得点圏打率は場面の重要度が均一ではないにもかかわらず、すべての打席を同じ重みで評価してしまっているのです。
そのため、LIが示す場面の重要度を数値として取り入れることで、打者の勝負強さを正確に評価できると考えています。
そのため「勝負強さ」の定義を明確にする必要もありますが、LIがいくつ以上の場面での打率とする方が正確に打者の勝負強さを評価できるのではないかと筆者は考えています。
計算方法と書籍紹介

最後にLIの計算方法を解説し、関連書籍をご紹介します。
LIの計算方法
LIの計算には、まず勝利期待値を使用します。勝利期待値とは、ある特定の場面において、そのチームが最終的に勝利する確率を意味します。
勝利期待値については以下の記事で解説していますので、詳しく知りたい方はぜひご一読ください。

そして、LIは以下の式で計算されます。
LI
その場面における勝利期待値の平均変動 ÷ 平均的な状況での勝利期待値の変動幅
この数式だけでは理解が難しいかもしれません。具体的な例を挙げて解説します。
9回裏 同点 2死満塁の後攻チームのLIを計算します。
1.勝利期待値の確認
9回裏 同点 2死満塁の場面での後攻チームの勝利期待値は 0.6435 です
2.結果ごとの勝利期待値の変動
・得点した場合(サヨナラ勝利): 勝利時の勝利期待値は 1 なので、変動幅は 1 − 0.6435 = 0.3565
・無得点の場合(延長戦へ):延長突入時の勝利期待値は 0.5 なので、変動幅は 0.6435 − 0.5 = 0.1435
3.勝利期待値の平均変動の計算
過去のデータに基づき、この状況での得点確率を35%、無得点の確率を65%と想定します。
勝利期待値の平均変動
(0.3565 × 0.35) + (0.1435 × 0.65) = 0.2181
4.LIの算出
過去のデータから算出される「平均的な状況での変動幅」を 0.034 とすると、LIは以下のようになります。
LI
0.2181 ÷ 0.034 = 6.4
この「6.4」という値は、「平均的な状況の約6.4倍、試合展開に影響を与える場面である」ことを示しています。
LIに関するサイトと書籍紹介
LIの計算方法を解説しましたが、ご覧の通り非常に複雑であり、すべてのパターンを自力で計算するには膨大なプレーデータが必要となり非現実的です。
LIの値は以下サイトでまとめられているため、興味がある方はご確認ください。
また、セイバーメトリクスを詳細に学びたい方へ、書籍をご紹介します。
著者のトム・タンゴ氏は、セイバーメトリクス研究家であり、メジャー球団のアドバイザーも務める第一人者、LIの提唱者でもあります。
本文は英語ですが、セイバーメトリクスの詳細なデータや理論を深く学びたい方にはおすすめの1冊です。
まとめ
今回は Leverage Index について詳しく解説しました。
Leverage Index は従来の「打点」や「得点圏打率」といった指標では評価できない「打者の勝負強さ」を評価することができる可能性を秘めています。
今回の記事をまとめると以下のようになります。
Leverage Index の解説まとめ
- Leverage Indexとは「その場面の重要度」を数値で表した指標
- 「打点」「得点圏打率」で打者の勝負強さを評価するのは難しい
- Leverage Indexを算出するには勝利期待値の数値を使う
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
また野球指標について学べる野球漫画も多く存在します。以下の記事では筆者おすすめの野球漫画を紹介していますので、興味がある方はぜひご一読ください。


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